あなたがきっと感涙する感動本

         ~この感動本のセレクションこそ当店の看板~

クラウディアの祈り (村尾靖子著、ポプラ社、本体価格1,400

                   

二人の愛は奇蹟を生む ! 

 

 終戦から八か月後の平壌、民間人の蜂谷彌三郎さんは、妻・久子さんと生後数か月の娘の目の前で、進駐してきたソ連軍に連行、シべリアへ抑留されました。厳しい収容所での生活も1953年(昭和28年)に刑が明けました。

  しかしながら、日本への帰国ができず、ソ連国籍を取得した彼は、同じように無実の罪を着せられ、強制収容所での10年の刑を終えたクラウディアと出逢い、2人はお互いの境遇に同情し合い結ばれました。「日本人のスパイ」「スパイの妻」と陰口を言われながらも、仲良く暮らしていました。
 1991年のソ連崩壊という歴史が彼らに新しい人生を歩ませました。帰国というドアが開いたのです。ここから最終ページまで涙なしでは読めません。クラウディアの愛の定義を最後に記します。 

「他人の悲しみの上に自分の幸福を築き上げることは、人道上、決して許されるべきではない」 

「ほんとうに人を愛するということは、その人が希望することを応援し、力になり、希望をかなえてあげられるように努力することだ」 

父からの手紙(小杉健治著、光文社文庫、本体価格税込648円)  

                    

犯人捜しをするよりも、父の愛に涙するミステリーです! 

 

  家族を捨て、失踪した父親である阿久津伸吉は、彼の子どもたちである、麻美子と伸吾の元に、誕生日ごとに手紙を送りました。十年が経ち、結婚を控えた麻美子の婚約者が死体で発見され、弟が容疑者として逮捕という不幸が発生。姉弟の直面した危機に、隠された父の驚くべき真実が明かされてゆくというストーリー。

  完璧なミステリー仕立ての中に、失われつつある「絆」を再生させるきっかけが隠されていることに脱帽です。

生きる』  (乙川優三郎著、文春文庫、本体価格495円)

 

生き続けることこそが唯一価値あり! 

  

   2002 127 直木賞受賞作。藩主が亡くなり、藩衰亡を防ぐため、家老から追腹を禁ぜられた主人公・又右衛門。娘の夫と跡取り息子の切腹、身内や家中の非難の中、ただひたすらに下命に従い生き続けた十二年間。藩主の後を追って切腹することは武士として潔しと考えられていた時代、生きる苦しみを嫌というほど味わいながら、物理的にまた精神的に「生きる」こととは何かを考えさせられます。

 (三浦綾子著、角川文庫、本体価格438円)

                                                               

母は間違いなく太陽です!

 

  『蟹工船』の著者・小林多喜二の母・セキの人生を、彼女自身が語り部となり、小説になった本書は落涙場面に随所に遭遇します。特に、獄中の多喜二へ面会に行くシーンは滂沱の連続。母としては息子を信じるのは当然であり、獄死の後は半狂乱になるが、多喜二に教えてもらったキリストの教え 

「光は闇に輝く」

という言葉で救われます。生母は聖母であり、太陽だということ、その意味では「孝」を実践しなければなりません。

甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ・高畠導宏の生涯 (門田隆将著、講談社文庫、本体価格648円)

                                                              

「伝説の打撃コーチ」は人生のコーチ も兼任!

 

 高畠導宏(みちひろ)氏は、アマ全日本チームのクリンナップで大活躍した実績を引っさげて、多大なる期待を背負って南海ホークスに入団するも、入団1年目のキャンプで左肩を脱臼し、そのために現役生活は5年間だけでピリオドを打ちました。弱冠28歳で野村監督率いる南海ホークスの打撃コーチに就任して以来、7球団で打撃コーチを歴任し、その抜群の打撃理論、ならびに卓越したコーチングにより、のべ30名以上のタイトルホルダーを育成しました。

  「野球に恩返しをしたい」という思いから、50代半ばから高校教師の道を目指し、5年かけて59歳で新米教師に着任。自らが果たせなかった甲子園出場を、指導者として挑戦しますが

1/4(よんぶんのいち)の奇跡 「強者」を救う「弱者」の話山元加津子・柳澤桂子・四方哲也・新原豊共著 マキノ出版、本体価格952円)

                

「自分」が「健常」である意味の重さに気づきました! 

 

 川在住の養護学校教諭の山元加津子さんの子どもたちとのエピソードと、3人の科学者(柳澤桂子氏、四方哲也氏、新原豊氏)の遺伝子研究の結果のフュージョンはとても刺激的です。 

 アフリカのマラリアに罹りにくい人を遺伝子レベルで研究したら、その兄弟には4分の1の確率で、重い障害を持つ人も現れてしまうそうです。4人の子どもが生まれた場合、必ずそのうち1人は重度の障害を持つという事実。

 つまり、人間が生存して行くにはマラリアに「強者の遺伝子」だけでなく、重い障害を引き受ける 「弱者の遺伝子」も必要だったということ。このことから、障害を持つ人の存在がなければ、今の自分もないという事実になります。人間として「健常」「障害」という区別することが適当なのかどうか考えさせられました。生活上は致し方ないと思いますが、人間の存在としては全く同じです。この事実を多くの人に知ってもらいたいと思います。

月光の夏(毛利恒之著、 講談社文庫、本体価格495円) 

                

文庫だからと思って電車の中では絶対読まないで下さい!

 

 ピアニスト志望の若き特攻隊員は最後にピアノが弾きたいと思い、ピアノのある小学校を探し、 ベートーヴェンの名曲「月光」を、小学生たちの前で弾き、南溟の空に出撃して行きました。過酷な運命に翻弄された彼の青春の行方をさぐる一人の女性が感動の秘話を爪弾いていきます。20ページで涙が出ない人は鬼だぁ!

『沖縄の島守 内務官僚かく戦えり』 (田村洋三著、 中公文庫、本体価格1190円)               

                  

 後ろから拝まれる人、死後慕われる人

 

 戦前最後の沖縄県知事の島田叡氏は、神戸二中(現・兵庫高校)から三高、一高と進み、内務官僚になられた。終戦前の大阪府庁勤務時に、沖縄県知事内命を受け、『私が断ったら、誰かが行かなければならない。それなら私が行こう。」とあっさりと赴任を受理。沖縄へは小さな鞄に身の回りの服と、『南洲翁遺訓』と『葉隠』を持って行かれました。 

 須磨区須磨浦出身で、野球、ラクビーでスポーツマンシップを発揮。座右の銘は『断而行鬼神避之』(断じて行えば鬼神もこれを避く)。沖縄へ赴任し、この本のもう一人の主人公、沖縄警察部長・荒井退造とともに沖縄県民20万人の命を救うために献身的な働きをされました。彼こそ、須磨の偉人です。

 

 

  

10万人を超す命を救った沖縄県知事・島田叡(TBSテレビ報道局『生きろ』取材班著、ポプラ新書、本体価格780円)

 

 

   戦火が沖縄に及ぼうとした時、前任の知事は病気と称して帰任せず、打診を受けた島田叡氏は拒否せず、敢然と沖縄県に赴任する。住民目線を貫いた行政、県民の疎開、食糧米の調達、県と軍の関係改善など、着任すぐに改革を実行。「命(ぬち)どぅ宝」の思いで、県民の生命を守るも、彼は行方不明のまま、終戦。学生時代の優秀な野球人ゆえのフェアプレー精神や、評価を求めず、身命を賭しての仕事観など、我々は彼の生き様から学ぶべき点が多い。

 

 

 

   彼ほどの人間学のモデルはないでしょう。 「断じて敢えて行えば、鬼神も之を避く」を座右の銘とし、自利よりも他利を優先させ、沖縄には「葉隠」と「南洲翁遺訓」の2冊を忍ばせて赴きました。県民には「生きろ」と言い続け、自身の命を奉げた人生は語りつがれなければなりません。

 

   「後の世に語りつがれず祭られず さらすしがばねみやびなるらん」 (福本日南)

 

 という歌そのものの生き様は官吏の亀鑑以外の何物でもありません。

 

さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~』(さかなクン著、講談社、本

体価格1,300円)

  さかなクン母の強さに涙しました

 

 

  ハコフグの帽子がトレードマークのさかなクンは東京海洋大学大学の客員准教授にし

て、名誉博士号。また、プロと共演するほどの腕前のバスクラリネット奏者でもある彼の

自叙伝は極めて興味深い。自らの生い立ちから、今に至るまでの、魚や彼をめぐる友人

や魚関係の人々との温かいエピソードで満載です。

 

   さかなクンが今の境遇にいる最大の要因は「好きになると一直線」の性格です。幼

の頃、お兄ちゃんと公園で一緒に泥団子を作った時も、お兄ちゃんはすぐに飽きて違う

遊びに興じる傍ら、さかなくんは112個も泥団子を丸めました。小学校の授業中も家から

持参した魚の図鑑を読み、絵を描くことに集中しているので、成績はさっぱり。しかし、魚の知識は玄人はだし。更なる知識を求めて、放課後は魚屋さんへ、休みの日には水族館へ詣でる生活を送っていました。「好きに勝るものなし」は彼への賛辞です。

 

    そして、第二の要因は、お母さんが彼を信じる深い愛情のある守り人であり、最大のファンであること。学校での三者面談で、担任の先生から成績の不振に話が及ぶと、普通の母親なら、「勉強しなさい。成績が良くなったら…」と言うはずです。 さかなクンのお母さんの答えはシンプルです。 「あの子は魚が好きで、絵を描くことが大好きなんです。だからそれでいいんです。」

 

    第三の要因は、さかなクンが自分の使命を理解したこと。 「自分の役割はお魚の感動を伝えること」と明確になって、小学生の卒業文集の言葉が現実になりました。「東京水産大学の先生になって、調べたお魚のことをみんなに教えてあげたい。そして図鑑を作りたい。」

 

  この本でのさかなクンの最高のメッセージは、 「夢中になって一つのことに打ちこんだという経験はけっしてムダにはなりません。人生のどこかできっと役に立ちます。」もちろん、それができる環境も必要ですが、一心不乱な姿は周囲も変えていくことでしょう。

 

旭山動物園の奇跡 日本最北の弱小動物園が日本一になった感動秘話  (週刊SPA!編集部編、 扶桑社文庫、本体価格591円)                            

                     

動物たちへの愛の結晶があればこそ

 

 廃園寸前の最果てのスタッフたちは、夢の動物園像として「奇跡を起こした14枚のスケッチ」を描き、 「動物がいるからこそ、私たちは心豊かに過ごしていける」ことを発信する場づくりに精を出しました。 ここから旭山動物園の快進撃が始り、 旭山動物園は北海道の一大観光スポットとなりました!

ゆびさきの宇宙 福島智 盲ろうを生きて  (生井久美子著、 岩波書店、本体価格1,800円)                            

                      

私たちにとって最大の、そして最重要の仕事が「生きること」 

 

 また、大変な人生を歩む人を知りました。神戸垂水生まれの福島 智氏は三歳で目に異常が見つかり、四歳で右目、九歳で左目の視力を喪失。十四歳で右耳、十八歳で左耳も聴力を失い、「盲聾者」となりました。支援体制も整い、都立大学に入学。教育学、特に障害者教育の道を歩み、現在は東京大学教授で、2003年にはアメリカTIMES誌で「アジアのヒーロー」に選ばれています。

  彼の母が考案した指点字通訳により、他者とのリアルな対話が可能になり、彼は素晴らしい人生を歩み始めました。 「皮膚接触というのはあまり意味がない。重要なのは魂の接触。その人の存在との接触が重要。」                               

 障害という属性を持っているだけで、この世に生を受けて存在する人の価値を高らかに謳いあげる、彼の人生哲学の深さには心震えました。

 

 ぼくの命は言葉とともにある 9歳で失明18歳で聴力も失ったぼくが東大教授となり、考えてきたこと』

 

 苦悩の中から生み出された、生きる意味、そして、幸福への道筋

 

  『ゆびさきの宇宙 福島智・盲ろうを生きて』(生井久美子著、岩波現代文庫、本体価格1,100円)で知った、垂水区出身の福島智・東大教授。元気で陽気な男の子が3歳で右目を、9歳で左目を失明、14歳で右耳を、18歳で左耳を失聴し、暗黒の真空状態の宇宙に投げ込まれた思いを持った彼は、自ら「生きる意味」を問いかけ、「真空に浮んだ私をつなぎ止め、確かに存在していると実感させてくれるのが他者との存在であり、『心の酸素』である、他者とのコミュニケーション」と考えます。そこには「言葉」が介在し、思索の積み重ねには実在の人だけでなく、点字での読書を通して、その本の著者とも思いを共有しています。

 

 『夜と霧』の著者であるヴィクトール・フランクルの、「絶望=苦悩マイナス意味。絶望とは意味なき苦悩である」という公式を、彼は、 「意味=苦悩マイナス絶望」 、そして、「絶望」の反意語を「希望」とすれば、 「意味=苦悩+希望」になり、生きていく上で必ず抱く「苦悩の中で希望を抱くこと、そこに人生の意味があるのだ」と結論付けます。そして、コミュニケーションで他者との関係性を生み、生きている実感を持つことが幸福につながるのでしょう。デジタルの影響で生のコミュニケーションが希薄になる中、良書と出合えた感動が読後に残りました。

愛の鬼才 西村久蔵の歩んだ道

 

 「西村久蔵という人物は、私たちの物差しではとうてい測り知れぬ人物である」

 困っている人は無条件で助ける。家は無銭の宿屋状態で、頼ってくる人はすべて受け入れる。仕事のない人は彼が経営する洋菓子店で雇う。店で使う以上は家族同然。入院していた三浦綾子さんを定期的に見舞うのもその一環。これは彼のキリスト教徒の生き方以前に、久蔵の両親の行き様である、「困っている者の傍を黙って通り過ぎてはならない」という教えが西村家には息づいていました。

 札幌商業の教師時代の久蔵は、「生徒たちを恋人のごとく夜も昼も念頭に浮かべて身心を傾注し、(中略)先生に接した人は、誰しも、自分は特別に目をかけられていた信じて疑わない。」という感想を教え子たちに抱かせる人でした。学生の父が酒に溺れ、勉学を続けられなくなると、札幌の町で禁酒を訴え、禁酒会を立ち上げる行動力は尋常ではありません。

 また、両親の牛乳屋をニシムラ洋菓子店に変革し、戦時中に小麦や砂糖が入手できなくなると、水産加工の削り節製造へ、戦後は再度洋菓子に形を変えながらも事業を継続する実力も只者ではありません。

 しかし、兵士として召集令状を受け、戦場へ派遣されたことを悔い、「信仰の不徹底からこの大戦に協力したこと」を罪と受け留め、「キリスト村建設」に注力し、「縁の下の仕事が、そして損することが、何よりも尊い」という人生を歩まれました。

 損得勘定やより豊かに生きたいと思うのがこの世の中の常識とすれば、他利を徹底的に追及し、どんな人にも敬意を払い、人の心に灯りをともし続ける「潔い」人からは学ぶことばかりです。「偽ることなき誠実と人間愛の精神」の実像が北の大地に春風を吹かせていた事実に涙して読み遂げました。

 (三浦綾子著、小学館文庫、本体価格750円)

芙蓉の人(新田次郎著、文春文庫、本体価格495円)

 

夫婦愛の鏡です!

 

世界文化遺産に登録された富士山には、すごい物語があります。明治28年、日本初の富士山頂冬期滞在気象観測を試みる夫と、子供を実家に預けて、足腰鍛えて後を追う妻がいました。高山病に苦しみながらも夫婦(みょうと)で力を合わせる、この深い愛情こそ尊い。

聖の青春(大崎善生著、角川文庫、税込691円)

 

師弟愛に号泣!


  29歳でこの世を去った、棋士・村山聖について書かれたドキュメントノベル。子供のときに患い、入院時に覚えた将棋。棋界No.1になるべく不屈の精神で難敵に立ち向かう。彼の存在が羽生名人を強くさせた!? また、森師匠との師弟愛のシーンには涙腺が刺激されました。将棋を知らない方でも感動が心に迫ります。

発酵道 酒蔵の微生物が教えてくれた人間の生き方(寺田啓佐著、河出書房新社、本体価格1,500

 

微生物が教えてくれる生き方!

 

発酵を促してくれる微生物の世界を眺めると、「自分らしく」「楽しく」「仲良く」とひたすら自然に素直に働いています。ここから寺田さんは、「腐敗せずに発酵すればいいんだ!」と悟り、「正しいことを、正しく行い、会社にかかわるすべての人々を幸せになる」酒造りに邁進しました!自然は大いなる師です。

 

名君の碑 保科正之の生涯(中村彰彦著、文春文庫、本体価格857円)

 

彼も代表的日本人の一人だ!

 

江戸時代初期、二代将軍秀忠のご落胤として生まれた幸松は、秀忠の正妻にその命を奪われそうになりながらも、甲州武田家の再興を期する武田信玄公の娘たちに守られながら成長し、信州高遠の保科家を継ぎます。やがて異母兄である三代将軍家光に引き立てられ、幕閣に於いて副将軍という重きをなし、会津へ転封となった後も、名利を求めず、傲ることなく、「足るを知る」ことこそ君主の道とした清しい生涯を営まれました。「一に家光の託孤の遺命をいかに果たしていくか、二に民政をいかに充実させるか」を形に成した名君です。例を挙げれば、現在の東京のまちづくりの基礎をつくり、藩主としては、年金制度や救急医療制度の創始者であり、リスクマネジメントの飢饉対策に社倉―米の備蓄―を充実させ、まさに領民たちの慈父となられました。
 ではなぜ我々が知りえなかったか? それは「会津」に答えがあります。幕末には佐幕の雄であった会津藩の歴史は、薩長土肥で形成された明治政府に闇に葬られました。それほど恐れられた会津武士道の基礎を築いた保科正之を日本人として誇るべきです。

非属の才能(山田玲司著、光文社新書、本体価格700円)

 

自分の立ち位置を決めかねているあなたに!


 その道の第一人者に対談し、その生き様に触れると、共通するのが「非属の才能の持ち主」つまり、「みんなと違う」ことを志向し、やり遂げてしまう能力を有している人です。

 しかし、日本人がおぎゃと生まれて歩む道は、まさにこの反対の同調、同属です。「斬新な発想や創造性が決定的にものを言う今の時代において、疑問を持たず、自分で考えず、受験だけに努力し、そして良い群れに属さないと幸せになれない」と命令する形の学校教育はその典型。子どもの頃から強烈な同調圧力に曝され、「みんなと同じ」が求められる。購買活動でも、個人商店より郊外型の巨大ショッピングモールやアマゾンを選ぶのも、同調、同属の現れであり、「人生の定置網」にまんまとひっかっていると論じている点は傑作だ!

 そして、「非属」になる方法も解説。いずれにしても、「行列に並ぶ」のではなく、「行列を作る」方になるには、「非属」しかないと断言できそうです。

森は海の恋人(畠山重篤著、熊谷竜子短歌、文春文庫、本体価格629円)

 

森・川・海は三位一体、それを取り持つのは生物


 宮城は気仙沼で牡蠣や帆立貝の養殖の漁師をされている、畠山さんは山に木を植える漁師でもあります。現代の技術を駆使する前の漁業は、その道具をすべて山から供給されるもので作っていました。船や櫓、養殖の資材もすべて木。「海で使う道具類は森の産物であり、森なくしは漁民は一日たりとも生きていけなかった」、その関係は蜜月そのものでした。しかし、「燃料革命の嵐は、昔から営々と築いてきた自然との共存生活を根底から覆す」ことになり、その関係は薄れていきました。

 海での異変はそれから数年のうちに起こりました。海岸や川原がコンクリートに埋め尽くされ、海苔の生産量が激減し、魚や貝の数も減少しました。この変化を学者の力も借りながら科学的に分析していくと、山が荒れていることに原因があることが判明。そこで「森は海の恋人」と称して山に木を植え始めました。海の問題を自然界全体から捉え直し、植林が地域の社会運動になり、地域の学校での総合学習にも活用されています。

 東日本大震災で壊滅的な影響を受けても、海へ向かう畠山さんの文章はとても素敵です。海の男は紙に向かっても力を発揮するのですね。

減速して自由に生きる ダウンシフターズ(高坂 勝著、ちくま文庫、税込価格821円)

 

次の時代の生き方の教科書はこれだ!

 

 大学卒業後、百貨店に販売担当として勤務していた高坂勝さんが、現在の辻褄の合わない消費世界に疑問を抱き、退職。一年間は日本や世界を見聞し、昔からの夢であったBARを開店するために、友達のいる金沢で修業。池袋から徒歩10分の地に6.6坪の小さなオーガニック・バー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」を出店。成長や発展とは無縁で、生活できるだけ売上があればという考え方で、一日5名のお客さんをお迎えすれば充分、あとは好きなことを自分で手間暇かけてする生活スタイルを楽しんでおられています。お店を一人で切り盛りする一方、自分の家族の食べるお米と大豆を生産する暮らしを営み、謙虚に生きる中から多くの発信をされています。

 

「more & more」から「less & less」へ

 

スケールメリットではなく、スモールメリットの追求

お金より時間重視

 

という主義は、経済的に豊かな人々から見れば、枯れたような生き方だと見られるかもしれません。しかし、グローバルの経済が世界の末端まで蔓延るようになればなるほど、貧富の差は激しくなり、富は一極へ集中する構図の中、その巨大な市場から自ら降りる方が人生バラ色になる!

未来のための江戸学 この国のカタチをどう作るのか(田中優子著、小学館、本体価格740円)

 

江戸の智恵は未来の処方箋

 

 当店では「江戸」に注目した棚作りをしていますが、本書は江戸時代の価値観や文化を研究し、現代の課題解決に結びつける未来学になっています。

 江戸時代は縮小の時代であり、「貪欲と浪費」を避け、「配慮と節度」を重んじる、つまりは「質素倹約」が当たり前でした。自然に則った生き方は持続可能な豊かさを導きだしました。有限な物の「循環」や「因果」(原因と結果)に根付く考え方は即刻導入すべきであり、現代で問われている「豊かさ」、環境問題、そしてボランティアの精神の範疇まで影響が及んでいたことは、現代にも活かせますよね。そして、万民が豊かさを享受できるように、地域別の特色ある産業が興ったことも、グローバリズムに対する答えですね。

 「明治維新以来、私たちが因果と循環と引き換えに取り入れた、勝ち負けを争う自由競争と暴力は、バランスを保つことができない。」

 江戸から学ぶことは絶対に多いはずです!

 

『翔ぶ少女』  (原田マハ著、ポプラ社、本体価格1500円)

 

 

今日まで生きてこられたことに感謝します

 

 1995年1月17日の午前8時頃だったかと思いますが、ラジオ関西を聴いていて、信じられない情報に耳を疑いました。

  「私の家が倒壊して、私は脱出できたけど、母が動けない状態です。助け出したいのですが、火が迫っていて、どうすることもできないんです。母には『もうええから、私の分まで生きなさい』と言われました。」

 当時は想像するだけで涙が出てきたことを覚えています。

 この小説の主人公も、同日に同じ境遇に身を置かれます。長田区の「パンの阿藤」の1階では、父母がパン製造で働いていました。2階では長男、長女、次女の3人が寝ていました。地震発生で、2階が1階へ崩れ落ち、両親は死亡。長女の「ニケ」の右足はがれきにはさまり動けません。彼女を助けたのは、近隣の心療内科「さもとら医院」のおっちゃん、「ゼロ先生」。3兄弟は小学校へ避難し、ゼロ先生は避難所を転々として、負傷者の治療に飛び回ります。

 親を亡くし、震災孤児となった子どもたちをゼロ先生は自分の養子として、仮設住宅での生活が始まります。震災から10年間、子どもたちは心に影を持ったまま成長していきます。ゼロ先生は仕事の他にも、仮設住宅、そして復興住宅に住む被災者のメンタル面でのボランティアに忙しく動き、持病の心臓に負担をかけ、倒れます。

 ゼロ先生の心臓手術を安心して任せる医者は、親子の縁を切っていたゼロ先生の息子しかいない。さて、このあとのストーリーは本書に譲りますが、どんな状況に陥ろうとも、前を向いて生きるだけだというメッセージを伝えてくれます。「もう大丈夫。心配はいらない。きっと、何もかもうまくいく」

 

大きな森のおばあちゃん(天外伺朗著、柴崎るり子絵、明窓出版、本体価格1,000円)

 

大いなる生の輪廻に感動しました!

 

ケニアに、密猟者によって親を殺された子象を三十年前から引き取って育てているダフニーさんが語った話をもとにした童話。

 アフリカに大規模な旱魃が発生しました。子象エレナと生活している、一番賢く、知恵があり、以前にも旱魃を経験したおばあさんを訪ねて大勢の象がやってくるようになりました。食べる草も飲む水も無くなる中、おばあちゃんの動静に従う象は何百頭にも膨れ上がり、みんなで旅立ちました。旅の途中にも道連れになる象は増え続け、何千頭にもなりました。おばあちゃんの目指す緑の森にようやく到着しましたが、すべての象が食べ始めると3週間で食べ尽くし、結局餓死する運命になります。

 おばあちゃんは年寄りの象を集め、重大な決定を下し、翌日から年齢順で森に入り、緑の葉や果物を食べ始めました。食事後、「お昼寝をして、それから森になります。では、おたっしゃで!」と言い、森から離れていきました。これがエレナのおばあちゃんを見た最後。

 50年後、群れのリーダーになったエレナはまた旱魃を経験します。エレナはおばあちゃんと同じ立場となり、大勢の象たちと旅立ちます。同じ緑の森を目指し、到着してエレナは驚きました。最後に感動のクライマックスを迎えます。

 種を守るための自己犠牲、命が命を生む姿、自己も大きな自然の中の一部分として生かされるという輪廻に大きな感動を受けました。 

木を植えた人(ジャン・ジオノ著、原みち子訳、こぐま社、本体価格850円)

 

自然に則した、無私は美しい!

 

南フランスのプロバンスと言えば、もう今では観光で有名ですが、そのアルプス寄りの山中で、黙々と何の報酬もなく荒れ果てた土地に、1910年から木を植え続けた男がいたというお話です。地球の片隅で誰かの命令で行ったわけではない、しかしながらそうすることの意味を深く理解した、非常に高貴な姿に感銘しました。環境問題云々ではなく、静かな感動を得ることのできます。

リズム (森絵都著、角川文庫、本体価格400円)

 

           どんな時も自分らしくあれ!

 

中学一年生のさゆきは、近所に住むいとこの真ちゃんが昔から好きでした。二人は、お互いの家でよく遊んでいました。しかし、最近の真ちゃんはバイトやバンドに熱中し、以前ほど遊ばなくなってしまった。そしてある日、真ちゃん家の両親が離婚するかもしれないと耳にします。思春期まっただ中のさゆきに、友情、恋愛、進路、家庭の事と様々な問題が圧し掛かってきます。悩むさゆきに真ちゃんが「自分のリズムを大切にしろよ。」とやさしく声をかけます。周りがどんなに変わっても自らのリズムを整える事により、自分のままでいられる。大人になった私にはどこか懐かしく覚え清々しい気持ちになりました。 

カラフル

 

 前世での大きな過ちを、魂として修業を積み、前世の記憶を取り戻し、過ちの大きさを再確認する挑戦への抽選に当選してしまったぼくが、一〇分前に睡眠薬で自殺した小林真くんという名の他人の身体に入り込みます。真の人生を嫌々ながら生きるうちに、家族、友人の気持ちが徐々に理解できるようになります。 

 人は他人から幸せそうにみえても、皆それぞれ悩みを抱えて生きています。人生やり直せたら、受けてきた災難など無くなるのではないかと期待しますが、どんな人生も艱難辛苦も楽しい事も必ずあります。人生は波乱万丈、上等じゃないかと勇気づけられる作品です。( 森絵都著、文春文庫、本体価格510円)

『木の教え』

 

宮大工、舟大工、橋づくり職人など、「木」を相手にしてきた人々の「木」に対する知恵をまとめた本です。 

木は長い時間を要して大きくなるため、無駄のないように工夫をしました。そして、木は育った環境によってそれぞれ癖があり、それを知った上で使う必要があり、所在がわからない木は除外しました。また、倒木後は後世の為に植林をすることも忘れませんでした。縄文から一万年に渡る、日本人と木の付き合いは時代とともに薄れ、忘れ去られようとしています。「効率優先」の現代において、木を大切に使う考えは再評価されるべきです。 (塩野米松著、 ちくま文庫、本体価格600円)

 『熱球 

 

三十八歳の主人公は仕事を辞め、娘を連れて田舎に帰ってきました。しかし、彼は田舎に帰ることに気が進みませんでした。それは、高校の頃、甲子園を目指し、予選の決勝戦前夜に悲劇があり、甲子園の道が閉ざされた、自分の中で整理出来ない過去があるからです。また、最近母を亡くし、一人暮らしの父は帰郷することに関して何も話さない。 

 大人は人生というグラウンドに立ち、幸せという熱球を追い求めます。しかし、どんな時にも自分を応援してくれる人が必ずいます。失敗しても、再出発をすることを応援してくれる小説です。 (重松清著、新潮文庫、本体価格550円)

奇跡の教室 エチ先生と「銀の匙」の子どもたち』

 

  エチ先生こと橋本武先生は明治九年生まれ、二〇一三年九月にお亡くなりになられています。戦後まもなく、当時公立校すべり止めだった灘中学で、文庫「銀の匙」を用い、三年間読む授業を始めました。虚弱な少年の成長物語を横道に逸れながら、ゆっくりと丁寧に追体験し教えていきました。この変わった授業を受けたのは、三〇年間でわずか千人。なぜ、エチ先生は教科書を使わず、「銀の匙」を三年間読む授業をしたのでしょうか。「自分が受けた国語が、どんな内容か全く覚えていなかったことに愕然とし、生徒に後々まで残るような授業はないだろうか。そして、生活の糧になればさらに良い。」という思いからの決断でした。三年間じっくり読みこむと、どんな事でも、深く踏み込み、真髄に近づき、前に進もうとする力、つまり「学ぶ力の背骨」と、国語力が身につきます。ぜひ、教師を目指す若い方にこの本を読んでほしいです。 (伊藤氏貴著、小学館文庫、本体価格495円)

 『星の王子さま』

 

1940年出版されて以来、半世紀に渡り、様々な言語に翻訳され、5000万部も発行されている大ベストセラー。飛行機が不時着した時に、僕が砂漠で出会った少年は、小さな自分の星を出て、いくつもの星を旅し地球にたどり着いた星の王子さまでした。この物語はまさに大人に向けたファンタジー小説です。

 本書を通して語られるメッセージは

「いちばんたいせつなことは目にみえない。」

ということ。大人になればなるほど、外見、経験・忙しさなどが邪魔をし、物事の本質が見えにくくなってきます。幼少期の純粋な気持ちとまっすぐな目はどこに消えてしまったのでしょうか。でも、誰しもこどもだったのは確かです。他にも星の王子さまの語る言葉は、大人になった私たちの心に必ず響きます。 サン=テグジュペリ著 新潮文庫 本体価格480円)

ポプラの秋

 

 父が急死した幼い私(千秋)は、母に連れられて、知らない町を放浪しました。やがて、たどり着いたのは、大きなポプラの木がある小さなアパートでした。私と母は引っ越しをし、こわそうな大家のおばあさんとも少しずつ、親しくなります。主人を亡くし、心の整理ができずにいた母と供に、幼い私も常に不安を感じていました。そんな千秋に大家のおばあさんはある日、私にある秘密を打ち明けてくれました。「私は死んだ人に手紙を届ける郵便屋なんだよ。」大家のおばあさんは父に手紙を書くように導きます。千秋の父を失った喪失感は、大家さん、アパートの住人との繋がり、思いやりで埋まっていきました。人の繋がりと心の温かさを感じる小説です。(湯本香樹美 新潮文庫 本体460円)

 

小倉昌男 祈りと経営

 

  小倉昌男氏といえば、宅急便の産みの親で、官に対してモノを申す大経営者。倒産の危機のあったヤマト運輸をよみがえらせるだけでなく、宅急便という大市場を生み出し、現代のインターネット通販のインフラとなりました。

 ヤマト運輸引退後、私財を投げ打って、ヤマト福祉財団を設立し、障がい者の就労支援に焦点を当てた活動を開始されました。しかし、これには〈はっきりとした動機〉がないという疑問に著者は取材を始めました。ヤマトの関係者に訊いても満足な発言もなく、彼が関わった、障がい者の就労施設の人たちからも明確な答えが得られず終い。最後は、人・小倉昌男、そして家族に確信を求めました。

  その謎への回答は本書に譲りますが、小倉昌男氏の行動に関して、

 「彼のエネルギーの源は怒りなんだろう」

 「宅急便も障がい者も、弱者への視点は共通している」

ことが述べられています。そして、その基盤は、書名にある通り、彼のカトリックへの「祈り」だろうと思います。いかに生きるべきか」がはっきりしているか否かが、その人物を評価することに間違いないでしょう。
(森健著、小学館、本体価格1,600円)

ぞうきん

 

  弱者の視点に立てば、見え方が一変します

 

   『置かれた場所で咲きなさい』や『面倒だから、しよう』などのベストセラーを書かれた、ノートルダム清心学園理事長の渡辺和子さんが、河野進さんの詩を再編したいという企画のもとに生まれたのが本書『ぞうきん』です。

 

   河野進さんは1904年和歌山生まれ、神戸中央神学校で学び、岡山県の玉島教会で牧師になられました。賀川豊彦に奨められた、岡山ハンセン病療養所での慰問伝道を50有余年続けられました。「玉島の良寛さん」と呼ばれた河野さんは、「聖良寛文学賞」も受賞されています。

 良寛さんというだけあって、凡人とは視点が違い、また、弱者に優しい気概が詩に滲んでいます。平易な言葉で書かれた詩は読む者の心を捉えて離しません。書名の「ぞうきん」という作品はぞうきんの置かれている立場に同情しつつ、ぞうきんのお役立ちに感銘を受け、自身もぞうきんのようになりたい!と宣言されています。心がざわついているときに音読してはいかがでしょうか?(河野進著、幻冬舎、本体価格857円)

  影法師

 

  茅島藩八万石を舞台に、武士の最下位層、下士の戸田勘一と、中士(中士の上には支配層の上士がいる)の磯貝彦四郎は、藩校で共に学び、同じ剣術道場で汗を流す。彼らは、刎頸の契りを結び、親友として成長する。彦四郎は勉学も剣術も藩内一の存在で、人間的魅力も大いにあり、勘一は彦四郎を常に追いかける立場であった。しかし、勘一の財政的に苦しい藩政をよくするためへの考え、また、実戦的な剣術の力などは彦四郎を刺激し、彦四郎は

 「勘一は茅島藩にはなくてはならない男」

だからこそ、「どんなことがあっても貴女(おまえ)を護る」と言い切る。

 勘一は下士から、最後は筆頭国家老にまで抜擢される一方、彦四郎は不幸な侍人生を歩み、最後は不遇の死を遂げる。なぜ、彦四郎と共に藩政を携われなかったのか?その秘密を探っていくと、「勘一は茅島藩にはなくてはならない男」、「どんなことがあっても貴女(おまえ)を護る」につながる、とても清々しいエンディングを迎えます。

 一人に光があたると、どうしても影が生まれる。逆に言えば、影がないと光は存在しない。勘一を藩の中心人物にするために、あえて影になる、友情に感動します。私は、この作品は、平成の『さぶ』(山本周五郎著)だと思います。
『影法師』 (百田尚樹著、講談社文庫、本体価格648円)